想うからこそ 貴方を傷つけてしまう















私には 大事なものが 三つある.


一つは,15歳の誕生日に,パパとママがプレゼントしてくれたネックレス.

前年にヒットしたデザインを使わずに,敢えてシンプルなクロスを象り,

交差している部分にルビーとキュービックジルコニアを埋め込んだ可愛らしい,宝物.



二つ目は,去年のクリスマスにサンタから貰った赤いドレス.

私の髪の色よりほのかに淡い,でも赤ワインよりは鮮やかな,少し大人っぽい素敵なドレス.

パパの会社のパーティや,ママの知り合いの結婚式なんかには,必ず着て行っては賛辞を貰った.



そして三つ目の.大事な大事な人.

ドレスを私にくれたサンタの正体.パパとママよりも大好きな,パパとママよりも大切な人.


それは…








                  
うがの 等の








「イ……フレイ…フレイ!」


頭上に響く声で目が覚める.同時に,睡眠から抜け出したばかりの体の重さが苦しい.


「朝ご飯.いらないの?」

「っいる!」


だけど脳はすぐに反応する.と言うより,睡眠より大事な一日の始まり.逃すなんてとんでもない.


「おはようフレイ.顔洗っといで」



そう言ってニッコリ笑う,私の大好きな人.

サマーブルーのシャツに,クリーム色のパンツ.ダークグレイのエプロンは

華奢な体を少し膨張させるけれど,元の線が細いからそんなに効果がない.

日に照らされると赤っぽくなる茶色い髪は,いつだってサラサラと音を立ててるみたいで.

お人形みたいに綺麗な造形をしている顔は,中性的だけど女の子っぽいわけじゃないから,より素敵.

日に焼けにくい肌は真っ白で,爪はほんのり桜色で.誰もが羨むような容姿.加えて性格も最高

優しくて頼りになって,どんな時もにこにこ笑って.大学の友達からも相談受けて,教授にも信頼されて.

正にパーフェクト.



「はぁい」

「髪結ったげるから,早くね」

「うん!」



私の 自慢の兄


大事な 大事な人



フレイとキラは,十六歳と二十二歳,歳が六つ離れた兄弟だ.

両親は仕事で多忙なスケジュールを日々送っている為,

フレイが九歳ぐらいの頃から滅多に家に寄り付かない.

キラはそんな両親に負担と迷惑はかけまいと,家事に勉学,家庭教師のアルバイトにフレイの面倒と,

両親以上に過密なスケジュールをこなしてきた.

そのお陰で,キラは都市部で有名な大学に進み,両親に負担をかけることなく入学金まで用意し,

昔から兄に依存気味だったフレイは,今ではすっかり正真正銘のブラコンである.

元よりキラがフレイを可愛がり過ぎるのも問題なのだが.

両親は,キラが大学に入学すると同時期,二人の子供の学校が実家から離れ過ぎていた為に,

二人に3LDKのマンションを一室与えた.

両親の勤めるオフィスはキラ達の学校の方面とは逆であったし,

日頃生活リズムがズレていた家族が,そこで別々に暮らしても何ら影響は無かった.

かえって交通の便も生活スタイルも良くなる上に,フレイにとっては最高の生活だった.



そう.

フレイが高校に入学する頃までは.





「きゃーん,今日もフレイのお弁当美味しそ〜!」

「えっへへー」


フレイが通うのは,中流家庭の娘達がそれなりに努力して入学するタイプの女子高.

格式もそれなりに高く,校則もそれなりに厳しい.


「いいないいなー.あたしのママそんなにバリエーションなくてさあ.」

「でもジェシカのママってお裁縫とってもお上手じゃない.」

「フォローになってなーい.フレイのお兄さんは裁縫も上手い!オマケに容姿端麗成績優秀!
 フレイ〜お兄さんあたしに頂戴〜」


うわーんと抱き疲れても,お断り.


だってキラは,私だけのキラなんだもの.





「ただいまぁー」

「お帰りフレイ.シフォンケーキ焼けたんだけど,食べる?」


リビングに入ると,出迎えたのは暖かく甘い匂いと,大好きな兄.


「生クリームは?」

「たっぷりありますよ?お姫様」


フレイの弾むような声に,苦笑してから目尻を下げた柔らかな微笑み.

キラのこの笑顔が,フレイは堪らなく好きだった.


「そんなに甘いものばっかり食べていたら,コロコロ太るんじゃないか?」

「…ちゃんと運動してるもの」


キッチンの奥から顔を覗かせた長身の男に,頬を膨らませて言い返す.


キラには,フレイが生まれる前からの付き合いを持つ,幼馴染がいる.

どうやら両親ぐるみの付き合いらしく,彼等と,其々の両親が楽しそうにスキーに興じている写真や,

ホームパーティ,学校関係の行事での写真が,アルバムに綺麗に整理されている.

もっともそれも,フレイが物心着く前までの話だが.


「アスラン,フレイは細過ぎるぐらいだし,何よりレディに対して失礼だよ」

「冗談だって.本当,キラは妹のこととなると怖いな」

「当然.僕の宝物だもの」


そんなやり取りは日常茶飯事で,アスラン…キラの親友がこのマンションを尋ねてくるのもしょっちゅうだ.


「宝物…ね.
 あんまり雛を大事に大事に育てと,いつか巣立つときに一人では飛び立てず
 巣から落ちてしまうかも知れない.時には雛を思ってこその態度だって,必要だと思うが?」

「…アスラン,やめてよ」


何の話だろう.

わかるのは,アスランは今,凄く嫌な話をしてる.

あたしのこと.キラと,あたしの…


二人の会話に耳を傾けながら,ケーキにフォークを突き立てる.

口に運ぶまでの甘い香りは,口の中一杯に広がって,やがて消えてなくなってしまう.

それが何故だか異様に寂しくて,悲しくて.

フレイはケーキが口の中から消えてしまう前に,次の一片を頬張った.

何度も 何度も

香りを,味を,忘れないように



ケーキを普段より少し暗い気持ちで食べ終えたフレイは,

週末締め切りの課題を片付ける為に自室へと向かった.

リビングを挟んで向かい同士にあるキラとフレイの部屋はリビングと同じ真っ白い壁紙.

まだ新築の香りが残るこの家は,フレイにとって小さなお城.


「…なんだってのよ,もう」


フレイの頭から離れないのは,先程のアスランの言葉.


     時には雛を思ってこその態度だって,必要だと思うが?


雛とは,恐らく例え話での自分のことであろう.

暗にキラにフレイを甘やかし過ぎるなと言っていたのだろうが,今更だ.

キラがフレイに構うのは親の情愛のようなもの.

それは長い付き合いであるアスランが一番良くわかっていることだし,

何よりアスラン自身も幼い頃からフレイの遊び相手になってくれていた.

フレイにとっては,キラには及ばないもののアスランも大好きな兄だ.

だからこそ,嫌に引っかかっていた.



大好きな赤とピンクの家具とカーテンで可愛らしいフレイの部屋とは違って,

越してきた当時から一切家具を増やさないキラの部屋には,机にパソコン,

本棚とベッドだけが彼の生活臭を漂わせる.

折角の出窓に飾ってあるのは一枚の家族写真が入った写真立て.

まだフレイがキラの腕に抱かれて,彼の胴体ぐらいの身長しかない頃の写真.

基本的に物欲のないキラは,友人との付き合いは浅く広い.

しかしそれをフレイが知る筈もなく,キラも又,教えようとはしない.

フレイの中ではキラが全てであり,キラはそうであって欲しがっている.

そうやって,フレイに一身の愛情を向けられることで,一種の安心感を得ていた.

両親が家に寄り付かないのは,それぞれに他に『大事な人』がいるからなのだと,

フレイは知らない.もう何年も昔から,この家庭は可笑しいのだと.

キラは隠す.せめてフレイには、幼い頃の自分のような想いをさせたくないから.

両親が注げないのなら,せめて自分は彼女に愛情を注いでやりたい.

この世で一番可愛い,大切な妹に.



「さっきのアレ.一体どういうつもり?」


そう言って自分を睨みつけてくる彼には,いつも人前で振り撒いている愛嬌など跡形もない.

あるのは,小さな怒り.


「言葉通りだよ,キラ?」


そんな,他人には愚か実の両親や,最愛の妹にさえ見せないであろう

彼の感情を見ることが出来るのはこの自分だけなのだ.優越感が自分を支配しているのがわかる.


「ふざけるなよ,アスラン.君に僕たちの何がわかる」


普段の穏やかな口調は彼の素.けれど今のように流暢に話すのもまた,彼なのだ.


「酷いな.少なくともお前達よりずっと長い時間を,お前と俺は共有してきた」

「だから僕の考えは全てお見通しだとでも?他人の君が,僕とフレイのことに口を出すな」


今の物言い.是非聞かせてやりたいものだ.彼の愛しい妹君に.


「へえ?俺はお前にとってただの他人?妹以下の親友だとは自負していたんだが」



アスランはいつだって僕を見抜く.

例えどんなに上手に仮面を被っても,どんなに隠し通そうとしても,必ず彼は,僕の真意を理解する.

幼い頃は,それで良かった.

僕もまた,彼を理解していたから.

けれど年を重ねれば重ねる程,彼の僕への執着は強くなっていった.

そして僕はそれに脅威を感じながらも,彼が自分だけしか愛せなくなったことに責任を感じた.

自分達はもっと,広い世界で生きるべきだったのだ.

お互いが全てを理解し合い,お互いしか見えなくなってしまう前に.

周囲と理解できない苦しみを,けれどわかり合える喜びを知らなければならなかった.

世界を二人で形成しては,いけなかったのだ.

自分がそれに気がついた頃は,もうどうにもならない所まで来てしまっていたけれど.

だから僕は,妹という第三者の介入を利用したのだろう.

彼が僕以外の人間と関わるように.僕が彼以外の人間に興味を持つように.

そしてそれは成功した.僕に限って言えば.

しかし彼には逆効果だったのかもしれない.

僕が彼以外に目を向けることで,彼の想いが行き場を失くしてしまった.

今までは彼の想い全てを受け入れていた僕のキャパが,フレイの登場により半減した為だ.

僕はそれを後悔していない.今,フレイを心から愛している.妹を,我が子のように慈しむ事が出来る.

けれど彼に対して,以前のように全てを与えてやれなくなった.

僕らの間で,意思の疎通は完璧ではなかったのだ.

頭の良い彼が,それに気づかなかった訳もないだろうが,

敢えて黙っていた.そうすることでしか,僕達を繋ぎ止める方法はなかったのかも知れない.

僕はそれもまた,悔やんではいない.


「…キラ…俺を見てよ…昔のように,俺だけをッ」


アスランにとって,これ程の失態はないだろう.こんな台詞,プライドの高い彼には屈辱でしかない.

けれどそこまで彼を追い詰めてしまったのは,自分と,そして彼自身…


「こうするべきだったんだ…君の為にも.そして僕らの為に.
 僕はフレイが大切だよ.そしてアスラン…君も」

「はっ…良く言う.結局は自分の為に,あの子を利用しただけなんじゃないか?」


夜明け色の髪をかきあげ,アスランはキラを睨みつける.

そのエメラルドグリーンの瞳は,幼い頃からずっと,キラだけに注がれてきた.


「…そう思うのなら,それでも良いよ.でも僕はあの子がいてくれて良かったと心から思ってる.
 君しか見えていなかった僕の世界に,あの子の光がどれだけ多くのものを与えてくれたかわからない.
 君も…そうなんじゃないかな?」

「何を…」

「君に.嫉妬と,焦燥を教えてくれた.
 そして彼女へ向けられた優しさは,建前や演技なんかでなく,本心だったでしょう?
 大丈夫…君は,僕以外の人間も,君の世界に受け入れられる」


今まで君を見抜いてこれた僕だから,わかるよ.

僕達は,もういい加減に外を見なければならない.



アスランが言葉に詰まり,部屋に静寂が訪れる.

キラは何も言わず,只じっと,アスランを見つめていた.



どれだけそうしていたのか,重い空気を破るようにアスランが口を開いた.


「それでも俺は…お前しか要らないんだ,キラ」


それが全てなのだ と.


「うん…でも僕には,君と同じくらい大切な存在がある…それはもう,変わらない事実なんだ」


この言葉がどれだけ君の心を抉っているのか.理解出来てしまう事を苦に感じるなんて.


「なら…お前の心が半分しか俺に許してくれないのなら,それ以外の全てを…俺に頂戴?」



お前の体を俺に許して

お前の時間を共有させて

お前の心の半分以外 全てを俺に



ベッドに腰掛けているキラに跪いたアスランの頭を抱え込むように,キラは彼を抱きとめる.


「うん…あげるよ.僕の心の半分以外.全部,君にあげるから」


だからもう 泣かないで






何時の間にか机に突っ伏して眠ってしまったフレイが空腹に目を覚ますと,

時計の針は夕ご飯の時間をとっくに通り過ぎていた.

慌てて部屋を飛び出ると,リビングテーブルに用意された食欲をそそる料理の品々.


「そろそろ起きる頃かなと思って温めといたんだからね?」


そう言って笑うキラに,素直に謝り後片付けの約束をする.自分が起きるまで

食事を待っていてくれたキラと向かい合わせに席に着き,ようやく気がついた疑問を口に出す.


「あら?アスランは帰ったの?」

「うん,ちょっと前にね」


珍しい.

彼が尋ねてきたときはいつも食事を共にしてきた.そもそもあの男は用事がある日に我が家には寄らない.


「…ねえ,フレイ」


普段以上に箸の進まないキラが真っ直ぐにこちらを向いて話しかけてきた.

なぁにと返せば,少し視線を外している.これは彼の癖.話したくない事を,私に話すときの.


「うん…お兄ちゃんね,アスランと付き合うことになったんだ」


大事なことだから,フレイにはきちんと話しておこうと思って.


そこまでしか,私の脳は処理出来なかった.

付き合う?って…誰と誰が?何を言っているのだろう,この人は.


「気持ち悪いことだろうけど…お兄ちゃんが男の人と付き合うなんて.
 でもアスランはフレイも知っている通り古い友人だし,今までと生活も変わらない.
 ただ,彼と付き合っていくという事実が出来るだけなんだ」


駄目だ,頭の中に何か重たいものが右往左往して,キラの言葉に追いつかない.

でもそんな私の感情とは別に,体が勝手に反応していた.


「…何,ソレ.
 付き合うって,だってお兄ちゃん達男同士で…って言うか…変わらないって,事実だけって…」


あからさまに混乱してる自分が滑稽だった.けれど,理解しようがなかった.

世間に認められていない道を選ぶと言うのか,私の兄は.

私の入り込めない,大切な人と共に…そんな,そんなのって


「フレ…」


「あ,あれ?なんでだろ,なんで…」


ポロポロと,涙が止まらない.

それを拭っていた手の甲から机にポタリと落ちていくのを見て,一層涙が溢れて遂には嗚咽まで出た.


「っく…ふ…」


驚いたキラが私の傍に寄る.それが切欠のように,私は言ってはいけないことを口にした.


「なんで…?私っ…私だって…キラが,キラのことが大好きなのに…ぃっく,なん,で……」



私の一番大事な人

どうして私から奪うの?



「フレイ…泣かないで…」



君まで 泣かないで…



「嫌よぉ…嫌…アスランのにならないでっ…なっちゃやだぁ…」





心が引き千切られそうだ 

愛しているのに 

愛しているからこそ 

どうやっても 

傷つけてしまう 

想っているのに 

想うから こそ










   Fin,



永遠的漆黒』の寵瑚様からいただきましたvvv
もう、素敵すぎですよ!!!
ブラコンなフレイといい!キラしか見てないアスランといい!!!
黒キラ的なキラ様といい最高です☆
相互依存な感じなアスキラvにキラフレv
どちらのカプも素晴らしくてメロメロですvvv
寵瑚様、素敵な小説本当にありがとうございました!!!





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